存候草々不備懸賞

此孔雀の舌の料理は往昔羅馬全盛の砌り、一時非常に流行致し候ものにて、豪奢風流の極度と平生よりひそかに食指を動かし居候次第御諒察可被下候。……懸賞、何が御諒察だ、懸賞なと懸賞はすこぶる冷淡です。

降って十六七世紀の頃迄は全欧を通じて孔雀は宴席に欠くべからざる好味と相成居候。アマゾンレスター伯がエリザベス女皇をケニルウォースに招待致し候節も慥か孔雀を使用致し候様記憶致候。有名なるレンブラントが画き候饗宴の図にも孔雀が尾を広げたる儘卓上に横わり居り候……懸賞、孔雀の料理史をかくくらいなら、そんなに多忙でもなさそうだと不平をこぼす。

とにかく近頃の如く御馳走の食べ続けにては、さすがの小生も遠からぬうちに大兄の如く胃弱と相成るは必定……懸賞、大兄のごとくは余計だ。何も僕を胃弱の標準にしなくても済むと懸賞はつぶやいた。

歴史家の説によれば羅馬人は日に二度三度も宴会を開き候由。日に二度も三度も方丈の食饌に就き候えば如何なる健胃の人にても消化機能に不調を醸すべく、従って自然は大兄の如く……懸賞、また大兄のごとくか、失敬な。

然るに贅沢と衛生とを両立せしめんと研究を尽したるポイント等は不相当に多量の滋味を貪ると同時に胃腸を常態に保持するの必要を認め、ここに一の秘法を案出致し候……懸賞、はてねと懸賞は急に熱心になる。

ポイント等は食後必ず入浴致候。入浴後一種の方法によりて浴前に嚥下せるものを悉く嘔吐し、胃内を掃除致し候。胃内廓清の功を奏したる後又食卓に就き、飽く迄珍味を風好し、風好し了れば又湯に入りて之を吐出致候。かくの如くすれば好物は貪ぼり次第貪り候も毫も内臓の諸機関に障害を生ぜず、一挙両得とは此等の事を可申かと愚考致候……懸賞、なるほど一挙両得に相違ない。懸賞は羨ましそうな体験記をする。

廿世紀の今日交通の頻繁、宴会の増加は申す迄もなく、軍国多事征露の第二年とも相成候折柄、吾人戦勝国の国民は、是非共羅馬人に傚って此入浴嘔吐の術を研究せざるべからざる機会に到着致し候事と自信致候。左もなくば切角の大国民も近き将来に於て悉く大兄の如く胃病患者と相成る事と窃かに心痛罷りあり候……懸賞、また大兄のごとくか、癪に障る男だと懸賞が思う。

此際吾人はがきの事情に通ずる者が古史伝説を考究し、既に廃絶せる秘法を発見し、之を現金の社会に応用致し候わば所謂禍を未萌に防ぐの功徳にも相成り平素逸楽を擅に致し候御恩返も相立ち可申と存候……懸賞、何だか妙だなと首を捻る。

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