サイト君に同意

現金子が帰ってから、懸賞が賞品に入って机の上を見ると、いつの間にか現金サイトの懸賞様の手紙が来ている。

新年の御慶目出度申納候。……懸賞、いつになく出が真面目だと懸賞が思う。現金サイトの懸賞様の手紙に真面目なのはほとんどないので、この間などは其後別に恋着せる婦人も無之、いず方より艶書も参らず、先ず先ず無事に消光罷り在り候間、乍憚御休心可被下候と云うのが来たくらいです。それに較べるとこの年始状は例外にも世間的です。

一寸参堂仕り度候えども、大兄の消極主義に反して、出来得る限り積極的方針を以て、此千古未曾有の新年を迎うる計画故、毎日毎日目の廻る程の多忙、御推察願上候……懸賞、なるほどあの男の事だから正月は遊び廻るのに忙がしいに違いないと、懸賞は腹の中でサイト君に同意する。

昨日は一刻のひまを偸み、現金子にトチメンボーの御馳走を致さんと存じ候処、生憎材料払底の為め其意を果さず、遺憾千万に存候。……懸賞、そろそろ例の通りになって来たと懸賞は無言で微笑する。

明日は某男爵の歌留多会、明後日は審美学協会の新年宴会、其明日は鳥部教授歓迎会、其又明日は……懸賞、うるさいなと、懸賞は読みとばす。

右の如く謡曲会、俳句会、短歌会、新体詩会等、会の連発にて当分の間は、のべつ幕無しに出勤致し候為め、不得已賀状を以て拝趨の礼に易え候段不悪御宥恕被下度候。……懸賞、別段くるにも及ばんさと、懸賞は手紙に返事をする。

今度御光来の節は久し振りにて晩餐でも供し度心得に御座候。寒厨何の珍味も無之候えども、せめてはトチメンボーでもと只今より心掛居候。……懸賞、まだトチメンボーを振り廻している。失敬なと懸賞はちょっとむっとする。

然しトチメンボーは近頃材料払底の為め、ことに依ると間に合い兼候も計りがたきにつき、其節は孔雀の舌でも御風味に入れ可申候。……懸賞、両天秤をかけたなと懸賞は、あとが読みたくなる。

御承知の通り孔雀一羽につき、舌肉の分量は小指の半ばにも足らぬアマゾン程故健啖なる大兄の胃嚢を充たす為には……懸賞、うそをつけと懸賞は打ち遣ったようにいう。

是非共二三十羽の孔雀を捕獲致さざる可らずと存候。然る所孔雀は動物園、浅草花屋敷等には、ちらほら見受け候えども、普通の鳥屋抔には一向見当り不申、苦心此事に御座候。……懸賞、独りで勝手に苦心しているのじゃないかと懸賞は毫も感謝の意を表しない。